逆選択やモラル・ハザードが発生するケースとは?経済学を解説

逆選択とモラルハザードの意味とは?

逆選択は、売り手と買い手、あるいは契約当事者のいずれかに、はじめから質的問題がある場合をいう。

しかし、時には契約が締結された後で一方の契約当事者が自分の利害のために行動を変え、契約にうたわれた内容や期待される行動から逸脱する場合がある。

それによって、他方の当事者が損害をこうむることもある。こうした状況を、保険業界の言葉を借りて、「モラル・ハザード」と呼ぶ。

 

モラル・ハザードが生じる状況

モラル・ハザードが生じる状況は、契約の当事者として「依頼人」(プリンシパル)と「代理人」(エージェント)を想定する。依頼人は、自らの利益を実現してもらうために、自分でできない業務を専門家に依頼して自らの代理人として働いてもらい、そのための報酬を支払う。代理人は依頼主の利益実現のため、最大限の努力をすると期待されている。しかし代理人は、ひとたび契約が成立したら、必ずしも契約どおりその職務を全うするとは限らない。代理人の行動は依頼主にはわからないという「情報の非対称性」のため、代理人は時には依頼主でなく自分の利益を追求し、それが依頼主の期待を裏切ることが起こりうる。

そうなれば依頼主は、代理人が契約どおりの職責を果たしているかを監視しなければならず、またそのリスクゆえに契約を控えることになる。いずれにしてもコストがかかる(「エージェンシー・コスト」)。コストがなければ実現していたはずの市場メカニズムによるもっとも望ましい結果が、実現しないのである。

依頼人・代理人関係は、弁護士と依頼人、株主と経営者、経営者と従業員、銀行と融資先、保険会社と被保険者などさまざまな契約関係において生じる。モラル・ハザードによる損失を避けるために、代理人を監視し、ときにはクビにして契約関係をスムーズに行わせるためのメカニズムが必要になる。株主と経営者の契約関係の場合、株式市場がその役割を果たすことはよく知られている。しかし市場メカニズムによる解決はやはり限界があり、ここにも長期安定的取引によるモラル・ハザード防止策が組み込まれるのである。

 

モラル・ハザードによる保険業界のケース

モラル・ハザードは保険金目当てに故意に保険事故を起こすことである。他方、モラル・ハザードは、契約者が保険加入によって「安心」した結果、注意を欠き、事故発生頻度を高めるなど損害規模を拡大させる可能性も意味する。では、モラル・ハザードによるケースを見てみたい。保険業界によるモラル・ハザードは自殺を除き概ね犯罪となる。デフレ期には出火率が増大し、しかも増加分の大半は保険金目当ての放火であると推測される。昭和恐慌時には特に保険金放火が激増した。放火に対する研究によれば、放火犯罪件数の年度間の変化は、主として保険詐欺放火の発生件数に依存する。近年も放火が出荷原因の第1位を占めるが、放火詐欺の摘発は必ずしも多くない。火災保険は証拠も含めて一切を焼き尽くすためであろう。疑わしい事情であっても、放火犯罪を立証し得なければ保険金は支払わなければならない。

物の多くは市場で売買することができる。家屋は不動産市場で売ることができるから、リストラで収入を失ったもの自宅を売って代金を手にし、それで生活を立て直す決意をするかもしれない。しかし、家屋が直ちに、また望む金額で売れる保障はない。かれは家屋を担保に銀行から金を借りて一時しのぐこともできる。しかし、住宅ローンがあれば、それも無理である。古い家屋では相手にしてもらえない。かれに残された方法は保険金の取得である。目一杯、いや家屋の時価以上に保険金をかけて火を放つ。うまく行けば保険金が手に入る。かれはうまうまと保険会社に売りつけ、一方、保険会社は大金を払って燃えた家屋を買い取る。表の市場で売り買いできないものでも、保険会社に売りつけることができる。こうして保険は闇の市場を作り出す。

 

海上保険の起源について

海上保険の起源とされるものに「仮装売買契約」があった。中世の地中海の商業都市では、教会法の利息禁止令によって「冒険賃借」と呼ばれる取引ができなくなり、困った商人たちは、船や貨物を保険者に売ったことにして先に手数料(保険料)を支払い、そして海難が起きれば海の底に沈んだ財宝を保険者に売った、つまり保険金を得た。物の保険はこの取引に似ている。半面、予め家具を運び出したことから放火詐欺が発覚したことがある。所有物への執着が犯罪の成就を阻害した。家屋のように物の保険では、その物への愛着や保険に付されていない諸々の小物等の存在がモラル・ハザードの発生を抑制するかもしれない。

 

モラル・ハザードによる金融業のケース

保険では、詐欺によるモラル・ハザードは犯罪であるため、刑罰や社会的地位の失墜などのリスクがある事が情報の非対称性であっても抑止に繋がっているのであろうと考えられる。

金融業ではモラル・ハザード発生の余地は大きい。例えば、銀行は借り手企業のビジネス内容や信用力を十分審査して、元利返済能力を確認したうえでカネを貸すが、ひとたびカネを借りた企業が、本来の借入目的ではなく不動産やゴルフ場開発への投資のようなリスキーな目的にそのカネを流用し、経営破たんしてしまったために、銀行は貸出を回収できず、不良債権を抱え込む、ということがバブル崩壊前後に頻発した。

 

アメリカの不動産ブームの破綻

アメリカでは、日本のバブルよりわずかに早く、1980年代の後半に、多くの地域銀行やS&L(貯蓄貸付機関)が不動産市場参加者にカネを貸し付け、不動産ブームを引き起こしたが、その終焉とともに借り手が多く債務不履行になり、貸し手の金融機関も軒並み経営破たんに瀕した。倒産を回避するにはなりふり構わず資金を集めてこなければならない。おカネが回っている限り企業も個人も倒産はしないのである。そこで彼らは預金保険制度を使った。アメリカの預金保険は、銀行が破たんした時、預金者は10万ドルまで預金の元本を保護されるというものである。そこで苦境に立つ銀行は額面10万ドルの高い金利をつけた預金商品を顧客に販売し、預金を集めた。預金者にとっては、仮に銀行が倒産しても、預金は満額保証され、そうなるまでは高い金利収入を得られる、ノーリスク・ハイリターン商品だったのである。こうした預金は「モラル・ハザード預金」と言われ、経営の行き詰った銀行が一時的に生き残って互いに取り引きし続けたため、不良資産が膨れ上がり、彼らが結局経営破たんした時のアメリカ金融界への悪影響も膨れ上がっていった。

モラル・ハザードを回避する方法とは?(個人的見解)

これらの事から私がモラル・ハザードについて回避するための方法としては、デメリットも多い長期安定取引やコストをかけた信頼性の徹底的な調査ではないと考える。国がモラル・ハザードを起こさない様に介入して、モラル・ハザードが起こるたびに、重い刑罰を科していくことなどが、抑止力となるのではないかと考えられる。金融界において、経営破綻しても行政機関が助けてくれるのであり、社員一人一人の責任は問われないという考えがあったため、上記のようなモラル・ハザードが起こったのである。そのため、企業や個人を抑止できる国の役割がモラル・ハザードに関して重要ではないかと私は思う。

参考に読んだ本

田村祐一郎 『モラル・ハザードは倫理崩壊か』千倉書房 2008